社会的養護のあり方専門委員会への意見書(案)

社会的養護のあり方専門委員会 / 児童虐待の防止等に関する専門委員会 

8月28日(木) 第4回委員会へ提出

  8月22日、厚生労働省と全国里親会、東京、福井の里親会会長とで、家庭福祉課長以下7名の方々と意見交換をすることが出来ました。
 「第1回の議事録、第2・3回の傍聴の感想では、委員会では、子どもの権利条約第20条の『子どもの家庭で育つ権利』を元にした家庭養護が社会的養護の基本理念となっていないなど、里親優先の基本理念が確立していない。委員が養護施設代表3名に対し、里親会が認める委員はいない。厚労省が里親代表という委員は、乳児院のあり方検討会の委員長を務めたり、他の里親たちの意見などでは、乳児院の代表委員と言われても仕方がない。里親代表委員の選出についても、全国里親会に話が無かった。愛着形成の観点からも、乳幼児は原則里親委託とする意見もない。施設経験者などの、当事者の意見が反映されていない。どの施設・里親に行くのかについて、子どもの意見表明権(権利条約第12条)が検討されていない。」など、意見を言いました。
 そして、「ケアの連続性の名の下に、子どもを施設に囲い込む意見ばかりです。子どもたちは、何才になったら、里親家庭に釈放されるのですか? 子どもたちが家庭で暮らす権利を守るためにも、施設の入所年限を、たとえば乳児院は3ヶ月、幼児は半年、学童は1年間などと設定し、結果として5年も10年も施設で生活をすることのないようにしていただきたい」と話しました。

 また、前回の委員会では、近畿児童養護施設が「大舎でもユニットケアの導入などで個別処遇は可能である」と意見書を出していました。(別途アップします)
 私たち里親も、委員会に対して意見を出せるのか、と聞いたところ、「資料として配布します」と言って下さいました。で、8/28の委員会に提出すべく、意見書のとりまとめをしているところです。

 取り急ぎ、以下のとおりの意見書をまとめました。28日まで、加筆訂正する予定です。ご意見がありましたら、掲示板に書き込むか、メールを下さい。

 ありがとうございました。10通ほどメールをいただき、意見書に反映いたしました。03/08/26 sido 
 いろんな方から、ご意見をいただきました。おかげさまで、短期間でそれなりにまとめることができました。ありがとうございました。03/08/28 sido 


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社会的養護のあり方に関する専門委員会への意見書(案)

1. 社会的養護のありかたについて

○社会的養護の基本理念

・基本は家庭養護とすることとすること

 厚生労働省は、平成14年度の里親制度の改正要旨での中で「里親か施設かという二者択一という捉え方ではなく」と表現していますが、平成12年度の厚生労働省発表の資料によると、親が育てられない子どもは、ほとんどが児童養護施設・乳児院に行き、里親家庭にいく子どもは6%にすぎません。佐賀県の平成12年度の里親委託は0であり、親が育てられない子どものすべてが施設に入っています。このように、子どもにとっては、二者択一ですらない厳しい現状を確認する必要があります。
 日本政府が1994年(平成6年)に批准した「子どもの権利条約」第20条には、「家庭環境を奪われた児童又は児童自身の最善の利益にかんがみその家庭環境にとどまることが認められない児童は、国が与える特別の保護及び援助を受ける権利を有する」とあり、さらに、国の与える代替的監護として、「特に、里親委託、イスラム法のカファーラ、養子縁組又は必要な場合には児童の監護のための適当な施設への収容を含むことができる」とあります。
 しかし、「特に、里親委託」と里親が一番にありながらも、今までは「必要な場合」以外にも、児童養護施設・乳児院への入所が優先され、里親家庭への委託は極めて少ないままでした。
アメリカでは、94年前の1909年、セオドア・ルーズベルト大統領により招集された第1 回全米児童福祉会議で、「家庭生活は、文明の最高にして最もすばらしい所産である。緊急止むを得ない理由でないかぎり、子どもから家庭を奪ってはならない。両親の死亡あるいは止むを得ない事情で子どもが家庭生活を続けることができなくなる場合には、子どもの実の家庭に最も似た環境で育てられるべきである。」と宣言し、里親制度の方向付けがなされ、脱施設化へと進んで行きました。
 貴委員会に於いても、今までの施設養護中心の施策を継承するのではなく、子どもの権利条約に定める「子どもの家庭で暮らす権利」を尊重し、社会的養護の基本理念に、家庭養護の優先原理をおいて下さい。

厚生労働省は、平成14年度の里親制度の改正要旨での中で「里親か施設かという二者択一という捉え方ではなく」と表現していますが、平成12年度の厚生労働省発表の資料によると、親が育てられない子どもは、ほとんどが児童養護施設・乳児院に行き、里親家庭にいく子どもは6%にすぎません。佐賀県の平成12年度の里親委託は0であり、親が育てられない子どものすべてが施設に入っています。このように、子どもにとっては、二者択一ですらない厳しい現状を確認する必要があります。

日本政府が1994年(平成6年)に批准した「子どもの権利条約」第20条には、「家庭環境を奪われた児童又は児童自身の最善の利益にかんがみその家庭環境にとどまることが認められない児童は、国が与える特別の保護及び援助を受ける権利を有する」とあり、さらに、国の与える代替的監護として、「特に、里親委託、イスラム法のカファーラ、養子縁組又は必要な場合には児童の監護のための適当な施設への収容を含むことができる」とあります。

しかし、「特に、里親委託」と里親が一番にありながらも、今までは「必要な場合」以外にも、児童養護施設・乳児院への入所が優先され、里親家庭への委託は極めて少ないままでした。

アメリカでは、94年前の1909年、セオドア・ルーズベルト大統領により招集された第1 回全米児童福祉会議で、「家庭生活は、文明の最高にして最もすばらしい所産である。緊急止むを得ない理由でないかぎり、子どもから家庭を奪ってはならない。両親の死亡あるいは止むを得ない事情で子どもが家庭生活を続けることができなくなる場合には、子どもの実の家庭に最も似た環境で育てられるべきである。」と宣言し、里親制度の方向付けがなされ、脱施設化へと進んで行きました。

貴委員会に於いても、今までの施設養護中心の施策を継承するのではなく、子どもの権利条約に定める「子どもの家庭で暮らす権利」を尊重し、社会的養護の基本理念に、家庭養護の優先原理をおいて下さい。

○施設養護と家庭養護の果たすべき機能と協働など

基本は家庭養護とし、施設養護は、養育相談・一時保護・レスパイトケア・治療などを行い、里親家庭のみならず、一般家庭の子育て支援施設として下さい。

○多様なニーズに応えるサービスのあり方

○その他

 ・具体的数値目標を定めること

5年後は、施設養護・家庭養護の構成比を5対5、10年後には1対9とするなど、施設養護から家庭養護への転換について、具体的数値目標を定めて下さい。

 ・子どもの最善の利益のために、里親委託についての親の同意を不要とすること

里親委託が進まない理由のひとつに、親が施設入所には同意しても、「子どもを取られる」と里親委託には同意しないと言われています。結果として、子ども時代の大半を施設で過ごす子どもがいます。「子どもの家庭で過ごす権利」は、親権と競合するものではありません。また、里親は、子どもが実親家庭に戻り、家族が再統合されることを望んでいます。したがって、後述する施設の在所期限の間に、家庭復帰ができなかった場合は、子どもの最善の利益にかんがみ、里親家庭に移り、そこから実親家庭への復帰を図るようにしてください。

 ・施設経験者など当事者の意見を聞いてください

この委員会では、過去においてケアを受けた施設経験者の意見を聞いていません。いわばケアの当事者の意見が反映しているとは言いがたいです。先日、東京地区の養護施設に在籍する高校生の交流会が開催されました。また、全国里子会のキャンプも開催されました。このような施設経験者、里親家庭経験者の意見を聞く会を設けていただき、その声を委員会に反映してほしいと思います。

2.施設養護のあり方(施設サービス体系のあり方等)について

・施設の在所期限の設定

「ケアの連続性」の名の下に、乳児院の入所年限を就学前までとする「乳幼児ホーム」構想や、児童養護施設に乳児院を併設する構想が出されていますが、子どもたちは、いったい何年間、施設で生活したら、家庭に行けるのでしょうか?

昨年11月、「少年の主張」大会で総理大臣賞をとった児童養護施設「太陽療」(長崎県島原市)の男の子(中3)は、作文「これから頑張るんだ」の中で、乳児院から施設へ来たことや親への思いを綴り、「父さん、母さん、聞こえましたか。○○はここにいる。」と締めくくっています。(この最後の一文が、児童養護専門雑誌では削除されていました)

なぜ彼は、15歳まで施設に在所し、未だに里親家庭に行けないのでしょうか? 私たちには、彼の最後の一言は、家庭を求める心の叫びに聞こえました。

在所期限の定めがないために、彼のように、親の所在が不明であっても、結果として子ども時代の全てを乳児院・児童養護施設で過ごし、家庭生活を知らないままに社会に出て行く子どもが1割程度いるといわれています。乳児期から18歳まで、子ども時代のすべてを施設で生活するのは、重大な権利侵害ではないでしょうか。

施設の在所期限を定め、子ども時代のすべてを乳児院・児童養護施設などの施設で暮らす子どもが絶対に出ないようにして下さい。

 

@乳児院の在所期限は原則3ヶ月とし、3ヶ月を超える乳児は家庭養護へ

全国乳児福祉協議会の調査では、3ヶ月以上乳児院にいる子どもが6割を占めています。そのうち1年以上2年未満の子どもが24%、2年以上いる子どもが14%、併せて40%もの子どもが、1年以上乳児院で生活しています。人間としての基本的信頼関係を築くべき、人生でもっとも大切で貴重な乳幼児期を、特定の大人との愛着関係を築くことなく、集団で育つことを余儀なくされています。

乳幼児の発育には、特定の養育者との愛着形成が必要不可欠であり、養育者との無条件の信頼関係を作ることで、その信頼関係を発展させ、他者との関係を作り上げていくことが出来ます。その心の基盤を作るべき大切な乳幼児期に、集団の中で育てられ、無条件の信頼関係を持ち得ない子どもは、成長するに従い、さまざまな問題を起こしていきます。心から信頼する相手を持たない愛着形成の出来なかった子どもは、成長するにつれ、心にポッカリと穴があいたような空虚感を訴えます。それを里親や施設職員が埋めることは、容易なことではありません。愛着障害は、里親などの養育者だけではなく、当の子ども自身をも苦しめています。

しかし現状は、2歳頃まで子どもを乳児院に措置し続け、児童養護施設に移る措置変更の時期に、ようやく養育里親を選択肢として検討するに過ぎません。このように、乳児院などの施設での長期養育で子どもの愛着形成を困難にし、委託された養育里親が苦労しているのが現状です。

乳児院では、養育担当制を導入するところも出ていますが、現行の職員配置基準では、1人で複数担当し、担当以外の子どもの養育も行わざるを得ないため、担当児童にかける時間をとれないのが現状です。また、養育担当制は、職員の力関係にも影響を受け、乳幼児の差別的扱いの原因となることも指摘されています。

昨年公布された「里親の認定等に関する省令」及び「里親の行う養育に関する最低基準」の制定趣旨には、「児童の発達においては、乳幼児期の愛着関係の形成が極めて重要であり、できる限り、家庭的な環境の中で養育されることが必要である。」とあります。

欧米では、乳児院は存在せず、乳幼児は一時保護も含め、里親に委託していると聞きます。日本においても、「乳幼児は原則里親委託」とし、乳児院の入所期限は3ヶ月と期限を定めて下さい。そして、3ヶ月を超えて家庭復帰の見込みがたたない乳児については、里親委託として下さい。

 

A児童養護施設の在所期限を幼児は6ヶ月、学童は1年とし、それを超える児童は家庭養護へ

厚生労働省の資料「養護施設入所児童等調査結果の要点」(平成13130日)では、児童養護施設の入所児童の平均在所期間は、4.8年となっています。しかし、この平均在所年数は、在所期間の短い中高生で入所した子どもを含めた平均在所年数であり、幼児期・学童期に入所した児童は、この平均を大幅に超えています。どの年齢でも、一度施設に入所すると、家庭復帰できる子ども以外は、措置解除となる18歳頃まで施設に在所していることになります。

児童養護施設の在所期限を幼児は6ヶ月、学童は1年と定めるなどして、それを超える児童は家庭養護に移り、家庭生活を営みながら、家庭復帰を目指すようにして下さい。

 

○ケア形態の小規模化(子どものニードに対応する家庭的・個別ケア等の強化)とその支援のあり方

・施設などのケア形態の小規模化は、地域に分散したグループホームを基本とすること

同一敷地内におけるグループホームは、形を変えた集団養護であり、地域に密着したグループホームの利点を損なうものです。また、大舎内におけるユニットケアは、年ごとの部屋替えや担当職員の変更などもあり、生活単位や人間関係が年ごとにめまぐるしく変わり、ケアの連続性からはほど遠いものとなっています。大舎・中舎の施設養護形態は廃止とし、地域に分散したグループホームを施設養護の基本として下さい。

 

・乳児院もグループホームを基本とすること

欧米では、乳児院を廃止し、一時保護も含め里親委託しているところがあると聞きます。日本では、定員が30名を超える大規模乳児院がまだまだあります。短期入所であっても、大集団での養育は不適切です。児童養護施設と同じように、地域分散型のグループホームとして下さい。

 

○施設サービス体系のサポートのあり方

 

○生活機能、治療機能及び教育機能などのケア機能強化

 ・家庭モデルの構築を

子どもたちは、施設を出た後、家庭を作ります。しかし、グループホームを含め、施設生活が長いと、家庭モデルを持たずに育ちます。職務として子どもの世話をしている施設では、生活のためには働かなければならないこと、収入の範囲内で生活することなど、生活に必要な様々なスキルが身に付きません。近年、施設には親が施設で育った、いわゆる「施設二世」の子どもが入所しています。将来結婚し、夫婦協力して子どもを育てる、健全な家庭イメージを持たなければ、たやすく家庭が崩壊する危険があります。健全な家庭モデルが構築できる仕組みが必要です。

 

・治療機能の強化を(施設出身者の意見)

施設での生活しか知らない子どもたちは、社会的ハンディ・キャップばかりでなく、心身共に何かしらの不安定要素を持つ事が多いです。子ども達は社会的にマイノリティな為、その不安を持ち込んで相談する機関がなかなかありません。あっても家庭の人向けのものが多く、施設出身者独特の混乱・不安定要素は理解できないケア職の人が多いです。施設出身者への心のケア、治療などに対する専門職の拡充を望みます。

 

 ・社会常識にあわせた施設運営を(施設出身者の意見)

児童養護施設という特殊な環境下で生活するという事は、生活機能が養護施設向きにシフトするのは当然至極な事です。本来「生活する」という事は将来、子どもが社会で生きる為の学習の場でもあるわけです。

その学習の場が、施設独特の環境下に置かれている以上、子どもが将来社会生活をする上で大変なハンディキャップを背負わされる事となります。特に、地域から孤立し、外に出る自由もない施設の子ども達は、大人になるまで多様な情報から切り離され、「施設の常識は、社会の非常識」という言葉に表される、施設独特のズレた視点でしか生きられません。

それらを解消する為に、施設での生活指導は「現状の社会常識に照らし合わせたものに切り替えるべき」と思います。

 

・子どもたちの教育権の保障を

全国の高校進学率は95%ですが、施設の子どもの高校進学率は6割程度、専門学校を入れても、7割程度です。大学進学にいたっては、一般の大学進学率が東京で8割あるのに対し、施設のそれは、数字として出てこないほど低いです。高校進学する児童の「特別」育成費を普通の育成費とし、全員が高校に進学できるようにしてください。また、大学についても、奨学金だけでは学費と生活費をまかなうことができないため、働きながら大学に通わざるをえません。生活の部分については、育成費を出して下さい。

また、進学率の低さは、本人の学力が低いことも理由にされていますが、家庭崩壊のごたごたの中で、勉強している子どもがいるほうがおかしいです。職員やボランティアが勉強を見るのも限界があります。学力をつけ、教育権を保障するために、学習塾などに通う経費を負担してください。

 

・居室スペースを人並みにし、中学以上には個室を与えること

現在、養護施設の児童の居室面積は、一人当たり3.3uとなっています。警察の留置場居室基準が一人当たり3.2uであるので、留置所並の居室基準です。また、居室人数も15人以下となっているため、30畳の大部屋に15人が寝泊りしても、違反となりません。

また、居室にドアがなかったり、ドアがあっても、大きな透明のガラス窓があったり、鍵がかけられなかったりします。

中学生以上は6畳以上の一人部屋、小学生も8畳以上の二人部屋とし、各居室に鍵をかけられるようにしてください。

 

・施設在所児童の交流の実施

イギリスでは、施設、里親家庭でケアを受けている子どもと経験者(12〜25歳)の団体である全国養護児童福祉協会(略称ネイピック)が、季刊誌「養護児童の声」を発行しています。また、「養護児童権利憲章百ヶ条」を発表したり、ケア経験者や当事者にアンケートを実施し、報告書を公表しています。協会の運営資金は、ほとんど国(保健省)が補助し、消費者活動の一環として位置付けられています。福祉関係者を含めた社会全体が、福祉の対象の子どもたちの声に真摯に耳を傾けようとしていることがよくわかります。

また、カナダでは、里親家庭や施設で暮らす14歳から24歳までの青少年自身がユース・インケア・ネットワーク(National Youth In Care Network)というNPOを運営しています。ケアを受けている青少年どうしでネットワークを作り、交流を図るだけでなく、当事者自身の声を政策に反映させたり、奨学金を貸し出したり、自立に向けての取り組みを行うなどの活動をしています。

日本でも、昭和63(1988)鳥取にて、第一回全国児童養護施設高校生交流会(以下「高校生交流会」)が開催され、全国の養護施設で暮らす高校生が意見交換をしました。利用者である高校生たちの交流は、施設間の処遇の不均衡や施設環境の大きな違いを浮き彫りにしました。平成7年(1995) の第7回福岡大会は、全国養護施設協議会が主催し、厚生省が後援し、30都道府県78施設、157名の高校生と69名のアシスタントが参加する大きな大会となりました。福岡県の高校生が施設の劣悪な処遇を訴え改善につながるなど、当事者である子どもたちの権利意識は高まりました。しかし、全国児童養護施設長会議で、「高校生交流会は役割を終えた」とされ、第9回愛知大会を最後に幕を閉じました。日本版ユース・インケアネット・ワークの母胎になる可能性をもっていただけに、施設長会の中止の決定は非常に残念です。

現在は、関東近県の児童養護施設で生活する高校生の交流を図る東京地区高校生交流会が、細々と続けられています。

施設生活経験者や現在施設で生活する子ども、里親家庭で暮らす子どもたちなど、当事者の意見を集約し、政策に反映させるためにも、このような当事者が意見を交換し、発信する組織は必要不可欠です。施設、里親の別なく、社会的養護の対象児童及びOB・OGで構成する、日本版ユース・インケア・ネットワークを設立して下さい。

 

○子どもに対する連続的なケアの提供

・ケアの連続性は家庭養護を基本として下さい

欧米においては、「永続的な信頼関係」を基本としたパーマネンシープランニングがケアの基本となっています。

あり方専門委員会には、「ケアの連続性」の名の下に、乳児院の入所年限を就学前までとする「乳幼児ホーム」構想や、児童養護施設に乳児院を併設する構想が出されています。しかし、子どものケアは、建物や敷地が行うものではありません。特定の養育者との愛着を構築することがケアの連続性の基本です。「ケアの連続性」は、家庭養護におけるケアの連続性を基本として下さい。

 

○ケア担当職員の質的・量的な確保

 ・施設職員の専門性の確保、働き続けられる環境の確保

養護施設職員の平均勤続年数は、3、4年です。「1年目は新人、2年目は中堅、3年目はベテラン、4年目は退職」と施設職員自ら言われているように、単純計算で、4年で全職員が入れ替わることになります。これでは、施設で一番古いのは子どもたちになってしまいます。結果として、若い職員が多くなり、保育士学校を出たばかりの二十歳そこそこの保育士が、さして違わない17、8歳の子どものケアを行うことも珍しくありません。

労働者としての施設職員の処遇を改善し、結婚しても、子どもが生まれても、長く働き続けることができるようにして下さい。

 

○地域支援機能などの在宅支援機能強化

 

○一時保護機能のあり方 等

 

 

3.家庭的養護の普及。啓発(里親・グループケア等)のあり方について

○里親制度の普及・啓発

・里親制度の大々的な普及啓発キャンペーンの実施

今年5月17日に、アメリカ・アリゾナ州フェニックス市の社会福祉事務所(Human Service Consultant)事務所長スティーブ・ショーさんの来日に併せて「アリゾナ州の児童福祉を学ぶ」と題した学習会を開催しました。それによると、アリゾナ州では、“里親の開拓”のために、州政府が、テレビなどのメディアを使って大々的に宣伝しています。『チルドレン・ニード・ホーム』と至る所に大きなポスターを貼り、車にはステッカーを貼り、そこにフリーダイヤルの番号を表示しています。

日本でも、厚生労働省とマスコミがタイアップし、里親キャンペーンを大々的に継続して行うことで、里親への関心の喚起・普及促進・啓発をはかって下さい。

 

 ・養子縁組里親制度の改善を

親がいない子どもや養育を放棄した子どもの最善の利益は、養子縁組制度です。実親の同意の取り方に問題があり、なかなか養子縁組ができない事例もあります。養子縁組制度を改善し、速やかに養子縁組が行われるようにしてください。

 

 ・ファミリーホームを区市町村に一つ以上設置

地域の里親家庭の拠点やサロンとして、また一時保護委託先や養育家庭のレスパイト先としても気軽に利用できるよう、区市町村に一つ以上のファミリーホームを設置してください。

 

 

 ・小学校区にひとつ以上の里親家庭を

現状では、親が育てられない子どもの大半が、本人の意志とは無関係に児童養護施設などの施設に行かざるをえません。家庭を失うだけでなく、転校により学校の友達を失い、住み慣れた地域や地域の友達を失い、見知らぬ土地の養護施設に入り、新しい学校に通うことになります。

親が育てられない状況になっても地域や学校を変わることのないように、小学校区にひとつ以上の里親家庭が登録されるよう施策目標を定めてください。

 

 ・里親の名称独占を

動物の飼い主や公共施設の管理ボランティアなどを「里親」と呼び、ペットや野生動物、公共物を「里子」と呼ぶ実態があります。動物愛護団体では、捨てられた犬猫の飼い主を募集する際に、「里親」募集とするところが大半であり、「里親」とはペットの飼い主のことだと誤解している人々が増えています。

さらに個人だけではなく、公共団体においても、東京都豊島区の「灰皿里親」の例に見るように、安易に人間以外のものに「里親」「里子」が使われている現状があります。

これは、里親家庭で育つ子どもの心を深く傷つけるものであり、また、里親も、大切に育てている子どもが動物やモノ扱いされている印象を受け、とても耐え難い気持ちになります。

里親家庭で暮らす子どもたちの尊厳を守り、里親制度が正しく理解されるためにも、里親制度の周知とあわせ、人間以外のものに「里親」「里子」を使わないよう自治体など関係機関への指導を行ってください。

具体的には、「里親」の名称独占を法で定め、認定された人以外は里親と名乗れないようにしてください。

 

○専門性の確保

 ・里親及び専門里親の多様化

昨年の里親制度改正では、専門里親が創設されましたが、対象児童は被虐待児となっています。
社会的養護の必要な子どもは、被虐待児だけでなく、心身障害児や聾唖児童、重症心身障害児、エイズ感染児童など、特別なケアを要する子どもたちもいます。このような子どもたちの家庭環境で暮らす権利を保障するために、乳幼児専門里親、障害児里親、重症心身障害児、エイズ感染児童養育里親、青少年自立支援里親など、専門里親を多様化して下さい。

 

・職業里親の創設

フランスでは、里親が職業と認定されています。2人までの子どもを預かり育てることで、給料をもらい、レスパイト、休暇がとれます。普通の労働者としての権利も認められています。また、イギリスでも、専門的里親の場合は、プロとしての報酬が与えられています。

日本でも、施設職員や専門的資格をもつ者、経験のあるものを職業里親として認定し、施設養護や家庭養護になじまない難しい子どもの養育を職業里親に委託して下さい。

 

○里親機能の拡充

 ・里親ファミリーホーム制度の創設

4人以上の子どもを養育する里親ファミリーホーム制度を創設してください。ファミリーホームとして認定された里親には、基準を満たす家屋の経費などを支給し、安定してファミリーホームを運営できるようにしてください。

 

○里親支援の強化 等

・里親への研修の充実、新規研修・継続研修の義務化

今般、RAD(反応性愛着傷害)やADHD(注意欠陥多動障害)、LD(学習障害)などの、子どもの障害が知られるようになりました。また、肉体的・精神的・性的虐待を受けた子どもやネグレクトの子どもへの関わり方も、研究が進んできました。さらに、子どもの抱える問題は複雑化・深刻化し、里親も、今まで以上の知識と力量が要求されるようになりました。
 昨年、栃木県宇都宮市で、里母が乳児院から委託されたばかりの子ども(3歳女児)を殺してしまうという悲しい事件がありました。長期間乳児院で育てられ、特定の養育者との愛着関係を形成し得なかった子どもの育てにくさは、里親のみならず、多くの児童福祉施設関係者の指摘するところです。
 また、虐待を受けた子どもは、誤ったコミュニケーション・スキルを学習し、虐待を誘発する言動を繰り返すため、養育者が手を挙げかねない状況に追い込まれることなども知られてきました。さらに、虐待を受けていないと思われる子どもであっても、里親家庭の安心できる環境の中で、過去の虐待を行為として表現(アクティブアウト)し、それが問題行動として認識される場合もあります。さらに里親家庭に委託される全ての子どもが、親との別離を含めたトラウマを抱えていると言っても過言ではありません。
 このような、いわゆる育てにくい子どもへの関わりは、里親の側にも、かなりの知識と対応が必要となります。しかし、研修の必要性を自覚しながらも、子育てに追われ研修に参加できない里親もいます。必要性を自覚していない里親もいます。
 同一研修を年間複数回開催し受講の機会を増やしたり、単位制として複数年での受講義務をもうけたり、地域単位で開催したり、講義だけでなくロールプレイなどの演習を導入するなど、研修内容の充実・受講機会の拡大とともに、受講方法の多様化を図り、里親への研修をより充実させて下さい。さらに、社会的養護を担う里親の心得として、新規研修・継続研修は義務化してください。

 

 

4.家族関係調整及び地域支援について

○家族の支援や親権者との関係調整

 ・ファミリーソーシャルワーク機能を持つ里親の育成

里親は、子どもの養育を担当するのみならず、子どもの実親や親戚との交流・支援を行っているものもいます。そのような里親が家庭支援を行いやすいよう、区市町村にある家庭福祉員、また、この委員会で話し合われているファミリーソーシャルワーカーのような機能を持つ里親として、専門里親と同列に認め、専門性を高めるための支援が受けられるようにしてください。

 

○関係機関との連携、地域におけるサポートシステムの確立

 ・地域サポートシステムへの里親の参加

虐待家庭や養育困難家庭などの家族関係の調整を行う場として、上記の家庭支援を行うことのできる里親を地域におけるサポートシステムの中に入れて活用を考えてください。

 

 

5.年長の子どもや青年に対する自立支援について

○年長の子どもや青年に対する支援(自立生活・住居・就労・進学等)等のあり方

 ・里親家庭やファミリーホームを機軸とした自立の促進

生活の自立は、施設における自立寮に半年生活したからつくものではありません。幼いころからの買い物や料理、掃除など家事のお手伝い、近所づきあいなど、日々の生活そのものが、将来の自立準備といえます。その意味で、小さいころから家庭環境で暮らすことは重要です。

 

 ・「自立するまでの支援」の必要性

子どもは自分の力が満ちたとき、自ら自立していくものです。それなりの教育を受けて、社会に適応し、自らの生活を営めるようになるまでは、守ってくれる大人の存在は必要です。実親が守ってくれない子どもについては特に、「自立するまでの支援」が受けられるよう、特別な措置を考えてください。

里親家庭から自立を目的に出た子どもが、失敗した時に安心して帰って来られ、里親家庭も安心して迎え入れられるような支援をしてください。

 

 

 

○自立援助ホームの機能や役割の強化 等

 ・里親型自立援助ホームの設立

   栃木県宇都宮市には、里親が運営する里親型自立援助ホームがあります。経験をつんだ里親などを、里親型自立援助ホームとして認定し、必要な経費を負担してください。

 

 

6.社会的養護の質の向上

○子どもの権利養護の強化

 ・子どもの「意見表明権」を制度として定めて下さい

「子どもの権利条約」第12条には、「児童は、特に自己に影響を及ぼすあらゆる司法上及び行政上の手続において、国内法の手続原則に合致する方法により直接に又は代理人若しくは適当な団体を通じて聴取される機会を与えられる」とあります。

しかし現状では、親が育てられない子どもの大半が、本人の意志とは無関係に児童養護施設などの施設に行かざるをえません。家庭を失うだけでなく、転校により学校の友達を失い、住み慣れた地域や地域の友達を失い、見知らぬ土地の養護施設に入り、新しい学校に通うことになります。失うものがあまりに多すぎます。

子どもが意見を表明できる手続が定められていないこともあり、児童養護施設に行くのか、地域の養育家庭に行くのか、子ども自身が選択できず、結果として児童養護施設などの施設に入所させられています。

児童養護施設に行くのか、地域の里親家庭に行くのか、子ども自身が選択できるように、意見を表明する仕組みを構築してください。

 

 ・要保護児童の後見人の選定

親が育てられない子どもには、民法で「後見人」を選任することになっていますが、現状では選任されないままになっています。
そのため子どもの権利を代弁できるものがいません。
「子どもの権利条約」第12条でも、「国内法の手続原則に合致する方<法により直接に又は代理人若しくは適当な団体を通じて
聴取される機会を与えられる」とあるように、子どもの意見を代弁できる代理人を選定して下さい。

 

 ・CAPプログラムの導入の義務化

社会的養護の対象の子どもたちは、自らの権利に対する意識が養成されていません。虐待を受けた子どもは、自分がされたことが権利侵害であることを認識しなければ、他の子どもに同じことをしたり、成長して親となった時に、無自覚にされたことを子どもにします。また、虐待からの回復、尊厳の回復は、自分の受けた虐待や権利侵害への正しい認識が必要不可欠です。

施設・里親家庭に対して、CAPプログラムの導入を義務づけ、児童の定期的なCAPブログラムの参加を促し、権利意識を養成して下さい。

 

○施設入退所等に関するアセスメントの策定

 ・里親委託についてのアセスメントの重要性

子どもが里親家庭で暮らし続けることが出来ず、養護施設などに措置変更される「里親不調」は、充分なアセスメントがないままに、子どもの性別や年齢のみの情報で里親委託を行うことも一因としてあります。また、施設に委託する際には、児童票をもとに受託の判断を行いますが、里親は、電話一本で委託を受けている現状があります。

里親養育は、子ども個人に合わせた養育を行える場として大変有効です。充分なアセスメントを行い、子どもに合った家庭を選ぶことが重要です。また、里親家庭も日々成長していきます。充分なアセスメントを行い、それについての説明と支援が丁寧に行われれば、養育の難しい子どもでも受け入れることの出来る家庭が増えると思われます。

適切なアセスメントと里親への委託の方法を構築してください。

 

○支援プログラムのあり方(個々の状況に応じた支援計画の策定等)

 

○サービス評価の実施

 ・子どもの権利を実現するサービス評価専門機関の設置

栃木県宇都宮市の児童養護施設「普恵園」では、職員の児童への暴行を、第三者委員会や県運営適正化委員会へ申し立てましたが、児童への事情聴取は行われず、申し立ては認められませんでした。また、千葉県船橋市の児童養護施設「恩寵園」でも、児童が集団脱走して訴えたにも関わらず、児童への虐待を県は認めませんでした。

このような施設内における人権侵害やサービス低下に対する評価について、強制力を持っている機関がありません。施設養護・家庭養護を専門的かつ客観的に評価し、勧告・是正を行うサービス評価専門機関を設置して下さい。

 

○社会的養護関係者に対する養成,研修の拡充 等

 ・研修の受講の義務化

千葉県の児童養護施設「恩寵園」や茨城県の児童養護施設「筑波愛児園」など、虐待が発覚した施設では、職員が長い間研修に出してもらえず、最新の養育技術や理論を学習する機会がありませんでした。職員の養成や資質の向上を施設に任せっきりにするのではなく、定期的な研修への参加を義務づけて下さい。

 

 

参考資料

里親委託促進のあり方−里親委託促進のあり方に関する研究委員会報告書−
 平成15年3月 財団法人全国里親会

里親活動振興事業検討会報告書
 平成1 4 9 2 7 日 財団法人全国里親会

・施設出身者の声

● 16年前に、小6から16歳まで施設で育ちました。里親家庭にいく制度はなく、里親家庭で暮らすチャンスはありませんでした。里親家庭にいけば、親の愛情と親のありがたみがわかったと思います。施設の子どもたちは、里親にいった方がいいと思います。なぜなら、里親家庭に行けば、血のつながりが無くても、本当の親の愛情やきびしさ、温かさ、楽しさ、嬉しさ、そして、つらさ、苦しさも感じることが出来るとおもいます。

  だから、子どもたちには里親家庭にいって欲しいです。そして、施設では感じられないものを感じて欲しいです。大切と思ったことを忘れないで欲しい、人を思いやる気持ちを養って欲しい。地域の子どもたちと仲良く遊んで欲しい。里親家庭の子どもたちが明るく、元気に、健康で、強く生きてくれることを願っています。(「ぶどうの木」読者より)

 

● 私も、施設で約18年間生活しました。世間の目は同じでした。就職にも、結婚にもハンデを負いました。一般の人は、よく頑張ったといいますが、心は正反対だと知り、よけい心が暗くなりました。
(「ぶどうの木」読者より)

 

● 私は、養護施設で育ち、教護院をへて、社会に適応できないままに親になり、あがきながら今日まで生きています。自分のルーツを読んだようで、読みながら何度も大きな声で泣きました。60歳になりますが、子どもの頃のことは、いまでもトラウマとなっています。(「ぶどうの木」読者より)

 

● 私は、乳児院・養護施設で15歳まで育ちました。中卒で社会に出て、働きながら夜間高校に通いました。社会に出て、さまざまな差別を受けましたが、こんな私でも結婚してくれる奇特な方がおり、子どもが生まれました。家庭を持ち、子どもが生まれて、初めて自分が過酷な環境で育ったことを自覚しました。無条件に私を慕ってくる子どもに、怒りや嫉妬を覚え、虐待しかねない毎日でした。自分には、「心から信頼できる大人がいなかった」「甘えた事がなかった」「いつもサバイバル状態だった」などなど、施設で育つことが、いかに子どもの心を壊していくのかわかりました。

  私は、心に大きな穴が空いている気がします。本来、無条件に信頼できる大人が占めるべき場所が、埋まらずに、心にブラックホールを抱えているような気がします。いつも、ギリギリと胸を締め付けられます。実子を育てても、空虚感はなくなりません。子どもとかつての自分を比較することで、さらに存在を気づかされる気がします。子どもには、こんな思いはさせたくないと、懸命に育ててきました。今、子どもは中学生になりました。

  Sidoさんのホームページを知り、里親家庭で育つ子どもがいることを知りました。そうか、家庭で育つ選択肢もあったんだ。血がつながっていなくてもいい、自分だけの大人が欲しかった。ようやく、自分の心の訴えに気づきました。

  そんな気持ちを妻に話し、里親の申請をしました。たった一人でいいから、子どもを孤独な地獄から救いたい。それが、かつての私を救うこと。動機は不純かもしれません。でも、孤独な子どもの痛みを知っているからこそ、里親として子どもの心に寄り添うことができると思っています。

  多くの方が里親になり、全ての子どもが家庭で育つことができる。それを願ってやみません。

 (sidoホームページへのメールより)
2003/8/25 sido